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※これはBUFFALO ZINE issue #3 のために行ったインタビューの日本語原文・ノーカット版です。これは後編で、前編からの続きです。

Interview by Yumiko Ohchi (Marginal Press) 

※このインタビューは2014年11月に行われた時のものです。

当時、何故子供を撮られていたのでしょうか?

近所にかわいい女の子がいたんです。その子をモデルにして子供のファッション撮影とかもしました。もう一人ハーフの子も近所にいて、その子を撮ってカメラ雑誌に発表したりもした。

その頃に子供、特に少女を撮られていたということがその後『少女アリス』の作品へとつながっていくのでしょうか。

そうなんですよ。その頃は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を写真で撮ったら面白いだろうなぁ、ってなんとなく思っていたんですが、それが現実になったんです。池袋の西武百貨店のクリスマス・キャンペーン用にアリスをテーマに写真展をやらないか、っていう話が来て。当時はデパートは人を呼ぶために写真展をやっていて、予算もある程度出たんで、トントン拍子で決まっていったんです。展示自体は大規模な写真展だったんですけど、クリスマスまでなので展示期間は1週間弱くらいかな、結構短かった。で、もったいなかったので、写真集も出しましょう、ってなって写真集を出したんです。

イギリスで撮影をされたとのことですが、この『少女アリス』の作品を撮られた時の思い出とか制作秘話のようなものがあれば教えて頂けますか。

うーん… 結構忘れているんですよ。僕は現場で写真しか撮っていないから細かなことはほとんど忘れてますね。

沢渡さんのこれまでの人生の中でも、アリスのモデルをやったサマンサという少女に出会ったことは大きなことだったのでしょうか。

大きいですよ。その時はそう思わなくても今となってみれば、かなり大きいですね。この『少女アリス』はあっという間に偶然出来ちゃったようなものだから、その時はこういうものをいくらでも作れる、って思っちゃうじゃない。でも、サマンサという少女に出会わなければここまでの表現は出来なかったですよ。スタッフも含め、全て「出会い」ですね。

いまだに沢渡さんにとって、被写体としてサマンサを超える存在というのはいないということでしょうか。

この『少女アリス』を撮った時は彼女は8歳で、その後彼女が14歳になった時にも撮っているのですが、やっぱりアリスの時のこの子が一番だよね。

沢渡さんにとっての「少女」の定義とは?

 

自分の中には無いですよ。ルイス・キャロルが言うには少女の定義は10歳くらいらしいですけどね。でも時代によって変わるじゃないですか。この後、サマンサが14歳になった時に「海と少女のヌード」をテーマに続編を撮ろうとしたの。でも14歳はもうヌードに対して微妙で、OKを取ってからイギリスまで撮影に行ったんですけど、現場でどうしてもダメで。頼みに頼んだんですけどね。13歳だったらもしかしたら撮れたかもしれない。女性はどこで変わるのかなぁ。意識し始めるとダメですね。少女って、天真爛漫に自由に動いている時のふとした瞬間に突如「女」の部分が出てきたりするんです。それを狙って撮るんですよ。

ずっと「少女」っていうのは、自分の生涯のテーマだと思っていたんです。だから40代、50代はコマーシャルの仕事とかいっぱいやって、歳をとってから自分の好きなものだけ撮ろうと思っていて、そしたらもう「少女」しかないな、って思ってた。そしたら時代的にだんだん規制が厳しくなってきて…。

 

1973年に最初の『少女アリス』が出版されて、それから40年程経った今、スペシャル・エディションが出版された訳ですが、何故今このタイミングだったのでしょう?

 

ちょうどここ2〜3年、仕事が少し落ち着いたので、ごちゃごちゃになっていたこれまでの自分の作品のネガとかを整理したんです。ファッションとかコマーシャルとか依頼された仕事のものは全部捨てて、アリスとか自分の大事なものだけ取っておいて、スキャニングしていったんです。結構色が退化しちゃっていたのですが、アシスタントにデジタルで復元してもらったら意外と綺麗になったんです。むしろ、渋くてオリジナルよりいいじゃん、ってなって。それで、使っていなくて好きな写真が結構あったので、「写真集にしよう」ってなったんです。

初版の『少女アリス』と今回のスペシャル・エディションとの違いは何ですか?

初版の方は、堀内誠一さんという偉大なアートディレクターと組んで、僕がおおまかに写真を選んで、そこから彼が選んで組んでいってあっという間に出来ちゃったものなんです。彼は仕事がとても早いのでね。僕は全て堀内さんにお任せしていたので、これはこれでいいんです。41年前のちょっとメルヘンっぽい感じを強調しているかな。それもあるので、今回の方はもうちょっと悪魔的というか、、、初版のものとは変えたい、という想いがありました。そういった(悪魔的な)写真が残っていたので、そこを強調するようにデザイナーの名久井さんに「ダーク・アリス」ってことでお願いしました。

沢渡さんの中でのアリス像はどちらに近いですか?

やっぱり、少女の中に意識していないところで悪魔と天使、どちらも含んでるんじゃない?だからものすごくフォトジェニックなわけじゃないですか。

子供の写真というと、あの頃は健康的でただ可愛いだけのものが多かったんですよ。もちろんそれはそれでいいのだけど、僕はそういうものに反発する気持ちもあったんでね。だから、この作品も「少女」というよりは「女」として撮っているんです。それにサマンサがちゃんと応える、っていうのがまたすごいよね。

実は、その後インターネットでたまたま現在のサマンサの写真が出てきたことがあるんです。今でも綺麗で、アリスの頃の面影もありましたよ。でも、僕は今の彼女をそっとしておいてあげたいんです。彼女のお母さんは理解もあって協力的でしたけど、でもやっぱり半ば強制的にやらされていたところもあっただろうし、彼女はあの頃のことはもう忘れたい、と思っているような気がするのね。今の生活を壊さないで欲しい、って言っているように思うんです。でもその反面、僕は彼女に嫌われてでもこの作品を絶対に発表したい。そりゃ、できればイギリスでも『少女アリス』を出版したり展覧会が出来ればいいなぁ、とは思いますけど、、、でもヨーロッパだと「これはポルノじゃないか!」って言う人が8割くらいじゃないですか。だからダメなんですよ(笑)。これをアートだと思ってくれる2割くらいの人たちの間で密かに売れていればいいんじゃないかな、とも思いますけどね。

今、沢渡さんが撮りたいテーマは何ですか?

女性のヌードですね。それはずっと死ぬまで変わらないと思う。

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